大会プログラム
大会テーマ:音楽の臨床実践力
1. 学術集会ご参加される皆さまへ
・ 受付
愛知学院大学名城公園キャンパス アガルスタワー10階 ロビーにて、9時から受付を行います。
・プログラム抄録集
当日の配布・販売は行いません。適宜、大会HP(下記)よりダウンロードいただくか、各自のデバイス等でご覧ください。
・企業展示
会場前のロビーにて実施いたしますので、ご覧ください。
・キッズルームについて
今大会では用意しておりませんので、ご注意ください。
・日本音楽療法学会の講習会受講ポイントについて
参加証明書をご希望される方は、当日、受付にて「受講証明書」をお受け取りください。
・その他
会場内での録音、写真・ビデオ撮影などはご遠慮ください。また、会場内でのマスクの着用は、個人のご判断に委ねることを基本と致しますので、必要に応じてご用意ください。
2.発表者の方へ
・一般演題(口演)は、発表7分、質疑応答3分です。
・午前10時までにPC受付にてスライド受付を行って下さい。
・ご講演15分前までに次演者席へ着席をお願いいたします。
3. 座長の方へ
・セッション開始15分前までに次座長席へ着席をお願いします。
4. プログラム
午前の部
開会の辞 9:30
1. 会長講演 9:40〜10:10
「リハビリテーション医療における音楽の力」 辰巳 寛(愛知学院大学健康科学部)
2. 一般演題 10:20〜11:10 (座長:佐藤正之)
3. スポンサードセッション 11:20〜12:00
「言語支援アプリケーションKOTOREHA」
諸藤久和(シスネット株式会社)/ 勝野由大(名古屋市立大学附属みらい光生病院)
(休憩 12:00〜13:30)
(世話人会 12:15〜13:15)
午後の部
4. 余興13:10〜13:30
5. 招待講演 13:30〜14:20
「超初級講座 失語症の言語症状」 波多野和夫(菰野聖十字の家診療所 所長)
6. 教育講演 14:30〜15:10
「音楽医療の臨床医学研究序説」佐藤正之(国立長寿医療研究センター)
7. シンポジウム 15:20〜17:00
「音楽医療の臨床実践」
座長:服部優子・小川尚子(本町クリニック)
シンポジスト:高野洋子 / 赤塚望(偕行会城西病院)
志賀真理子 (鵜飼リハビリテーション病院)
奥村由香(中部脳リハビリテーション病院・中部療護センター)
閉会の辞 17:00
学会企画講演内容
【大会長講演】
リハビリテーション医療における音楽の力
辰巳 寛
(愛知学院大学 健康科学部 健康科学科)
リハビリテーション医療と音楽医療の共通の目的は、さまざまな疾患や障害で困っておられる方々に対する心身機能の回復・維持、生活(人生)の質の向上、痛み(不快)軽減であり、そこから期待される臨床的効果は認知機能や運動機能の改善、コミュニケーション機能と環境の向上です。双方ともに主とする対象は、小児から高齢者まで幅広く、身体疾患のみならず精神・神経疾患、発達障害、認知障害などです。介入手段は個別療法から集団療法まで多種多様な手法があります。リハビリテーション医療と音楽は極めて親和性の高い関係であり、実際に古くからリハビリテーション医療の現場においては、さまざまな形で音楽の力が取り入れられてきました。
音楽のもつ力は、心身の機能(特に脳活動)にどのような肯定的効果を及ぼすのでしょうか? 脳機能画像を用いた研究では、音刺激の違い(好きな音楽、馴染のない音楽、コサイン語など)によって脳賦活パターンが大きく異なることが判明しています。特に好きな音楽や馴染のない音楽では、脳は最も広範囲に活性化し、脳血流量も増大します(Karmonik C, et al. Brain Connect 2016)。
こうした音楽の力は、脳卒中リハビリテーションの現場でもさまざまな形式で活用されています。音楽医療は大きく4種類(治療的楽器演奏、音楽的記憶訓練、リズム聴覚刺激、メロディックイントネーションセラピー:MIT)に区別されますが、各々がその得意領域において素晴らしい効果をもたらしています(Moumdjian L, et al. Eue J Phys Rehabil Med 2017)。例えば、楽器演奏は上肢の巧緻性運動機能の向上に、音楽記憶は注意機能の改善に、リズム刺激は歩行の安定化に、MITは運動性失語の発話機能の改善などです。音楽には心身の健全性を大きく促進させ、リハビリテーションの意欲を高める素敵な効果が期待されます。
心臓リハビリテーションにおいても、音楽医療は絶大な力を発揮します。心血管疾患に対する音楽の生理的効果は実証されており、自律神経系のバランスの改善に大いに寄与します(Bradt J, et al. Cochrane Database Syst Rev 2013)。
慢性閉塞性肺疾患に対する呼吸リハビリテーションの現場では、鍵盤ハーモニカを用いたユニークな試みがなされており、従来の呼吸リハと遜色のない効果が確認されています(萩原ら. Jpm J Psychosom Med 2024)。
リハビリテーション医療と音楽医療は、今後ますます濃密で不可分な関係を発展させて、心身の不調に悩まされておられる方々の福利向上に大きく貢献すると確信します。
学会企画講演や一般演題等を通して、リハビリテーション医療における音楽の力を強く再認識していただくとともに、皆様の明日からの臨床活動において有意義な学会となりますよう心より願っております。
【招待講演】
超初級講座 失語症の言語症状
波多野和夫
(菰野聖十字の家診療所)
失語症は言語の解体です。言語とは何かについては考え方がたくさんあると思いますが、その障害を相手にしている臨床医学の立場からは、まずは言語を4つの水準に区別する必要があります。「発声・構音・言語(狭い意味の)・精神(知性・感情など)」です。
「発声」は声帯振動ですが、その障害は失語症ではなく「失声症」です。声帯が振動しなくても、相手の耳に近づいてひそひそと気息性の内緒話をすれば言葉は通じます。「構音」は口唇・舌・咽喉・口蓋などの位置や運動により、言葉の音を作り出すはたらきです。この精密な運動が損なわれると、語音がゆがみます。これが構音障害です。これも失語症ではありません。
さて「言語」というのは、一応まとまりのある一つの機能であると考えます。だからその解体である失語症も、一つのまとまりのある病態であるわけです。さらに言語は我々の精神や知性が働くための一つの「道具」であると考えます。人は言語という「道具」を使って、こころの中の何かを表現しようとします。この精神のレベルの「主体」の障害は「認知症」です。失語症はどんなにボケたように見えても、認知症ではありません。周囲のことも自分のこともちゃんと分っています。
こういう風に言語を一つのまとまった機能と考える理由の一つは、脳の中に言語に特化した部位が存在するからでもあります。この4つの水準の「言語障害」を引き起こす脳損傷部位はそれぞれに異なります。だからこそ、失語症は一つの独立した病態であると考えるわけです。
そういうきわめて基本的なことを述べてみたいと思います。
【教育講演】
音楽医療の臨床医学研究序説
佐藤 正之
(国立長寿医療研究センター 物忘れセンター)
1. 現時点での音楽療法のエビデンス
現時点で、音楽療法の有効性がある程度確立している神経疾患・症候として、以下のものがある:認知症の行動・心理症状 (BPSD)、パーキンソン病の歩行障害、脳卒中後の麻痺・心理症状、失語症に対するメロディックイントネーションセラピー (MIT)、半側空間無視。近年さらに、がんの放射線治療、侵襲的な処置・検査時の痛みについても、良質な医学誌への報告が相次いでいる。それらでは、診療やリハビリに音楽を用いることによる効果が、客観的なデータによって示されている。
2. なぜデータが必要なのか?
評価やデータがなくても、セッションの時間は過ぎていく。では何故、データが必要なのか。その理由として3つあげられる。第一に、効果の可視化。セッションの場にいないスタッフや家族に効果を説明するのに、施行者の印象だけでは説得力がない。特に、施設の運営者に客観的データにより有効性を示すことにより、音楽療法士の活動の場を維持することが出来る。第二に、目的の明確化。セラピーを行うからには、ターゲットとなる症状があるはずである。行ったセッションが正しく目的にアプローチ出来ているかを知ることは、目的と手段の適合という点から重要である。第三に、手法の改善。評価を行い、目的が達成されているかを知ることで、セッションの内容をさらに高めていくことが出来る。薬物や手術と同様、音楽療法の手法の改善にも終わりはない。
3. 現場で市民権を得るにはどうしたら良いか?
評価を行うには、疾患や病態、検査に関する幅広い知識が必要である。それらを身に付ける不断の努力が必要なことは言うまでもないが、スタッフの協力を得ることも重要である。現在はチーム医療である。患者を相手にする以上、チームの一員としての振る舞いが求められる。そのためには、自ら努力しないといけない。「チームのメンバーとして認められないから出来なかった」というのは本末転倒である。では、一員として認められるにはどうすれば良いか。答えは、求められる以上のことをする、である。時給に入っていなかったとしても、スタッフのカンファレンスに参加する、セッション終了後の患者の様子を観察するため、時には就寝時まで施設に留まる、自分が得たデータを院内のカンファレンスなどで他のスタッフに還元する、などである。これらを継続することにより施設内での信頼が得られ、チームの一員として患者に関する情報共有が的確になされ、セッションや評価に協力してもらえるようになる。これは、運営者に音楽療法の必要性を認識してもらうことにも繋がる。
医療・福祉での人材不足や厳しい経営環境の中、現場に追加の労力を求め、運営者に新たな支出を強いるためには、必要性が広く現場に認識されていなければならない。データや研究は、そのための目的でもあり手段でもある。
シンポジウム
「音楽医療の臨床実践」
座長:服部優子 小川尚子
(本町クリニック)
S1
高齢者ケアにおける音楽療法の有用性
~音楽で人の輪が広がる認知症カフェ~
高野洋子 赤塚のぞみ
(偕行会城西病院 総合相談窓口課)
偕行会城西病院は、都市部における在宅療養支援病院として、訪問診察・地域包括ケア病棟があり医療と介護の橋渡し役を担う。地域の高齢化率は25.7%に達していて独居高齢者や高齢者世帯の割合が多いため病状の回復と並行して生活のサポートが必要となる。
そんな高齢者が地域で安心して暮らしていくために、包括的に切れ目のないサービス提供ができるよう「総合相談窓口」を院内に設置し、地域高齢者の生活の「総合コーディネーター」として様々なスキルを持ったスタッフを配置した。
総合相談窓口の職員は、社会福祉士・社会保険労務士・認知症ケア専門士・音楽療法士・笑いヨガティーチャー・キャラバンメイトなど様々な資格を有する職員で構成されている。相談内容など必要に応じて有資格者で対応する。
寄せられる介護相談は66%が認知症に関する相談である。この相談ニーズから2015年に医師・看護部・リハビリ課・総合相談窓口職員などの多職種チームで認知症カフェ「ほっとカフェじょうさい」を開設した。
認知症カフェは、認知症当事者やご家族、地域住民そして専門職が交流する場となって認知症予防や進行抑制を図り、病院が地域の方と一緒にコミュニティを作り上げている。
高野洋子 社会福祉士の立場から
総合相談窓口は、主に外来に通院で来られた方や地域の高齢者のご相談に無料で応じている。相談内容は、介護相談だけではなく、栄養相談、年金相談、人生相談など様々である。また、近年増加傾向にある一人暮らしの高齢者が社会から孤立することのないよう、地域の方と交流を図るコミュニティの場を作る活動に力をいれている。認知症相談では周辺症状が悪化してからの相談が増加している。認知症本人と家族のサポートの1つとして認知症カフェで音楽療法を取り入れた経緯や様々な病院の取り組みについてお伝えする。
赤塚 望 音楽療法士の立場から
認知症予防や健康維持の一環として認知症カフェで音楽療法を行っている。2017年5月より導入し、これまで640回以上実施、15,400名以上の地域住民・外来患者・入院患者とその家族が参加している。
なぜ病院で行う認知症カフェにここまで多くの地域住民が足を運ぶようになったのか、コロナ流行が認知症カフェにどのように影響したのか、コロナ流行でみられた認知症カフェの変化と新たな取り組みとして導入された入院患者・施設入所者への個別音楽療法や地域への講演会活動についてお伝えする。
S2
回復期病院におけるMelodic Intonation Therapy日本語版の臨床
志賀真理子
(鵜飼リハビリテーション病院)
【はじめに】 Melodic Intonation Therapy(MIT)は、右半球支配の音楽的要素を用いて、左半球損傷によって失語症を呈した患者の治療に用いられ、発話の流暢性に有効性が示されている。1983年に関らがMIT日本語版(MIT-J)を作成し、2022年に実務者講習会が開催され、MIT-Jが臨床現場へ普及しつつある状況である。今回、回復期病院に入院した失語症患者に対してMITを実施したため、治療効果と経過を報告する。
【症例】60代女性、右利き。左中大脳動脈領域の出血性梗塞を生じ、失語症を発症。X+18病日に回復期病院へ転院。入院当初は、音声表出は重度に障害され、発話開始困難、努力性の発話、構音の歪みを認め、重度の発語失行と構音障害を合併していた。日常では、有意味語は挨拶語のみで筆談を主体とし、聴理解は日常の内容であれば可能であった。その他の認知機能はMMSE25点、RCPM35点、TMT-Aは135秒、Bは187秒で軽度の注意障害を認めた。
【方法】1日40分/日、11日間のMIT-Jの短期集中訓練を行った。訓練前後でWAB失語症検査、SLTA失語症検査を実施し、訓練前後の言語機能を比較した。
【結果】WAB失語症検査の失語指数 (AQ)と、SLTAの単語呼称の正答数が3語→14語、単語復唱は5語→10語と改善した。日常では、筆談の使用頻度が減り、本人は「話しやすくなった」と語り、親族からは「何を言っているか分かるようになった」と評価された。発話量が増加したことで、その後は積極的な構音障害への治療が可能となった。
【考察】回復期失語症患者に対する短期集中的なMIT-Jは、発話量増加、流暢性の改善に寄与する。構音障害の程度に比して、発話の開始困難が強くでているケースでは、MIT-Jは治療の第一選択として有益になりうる。
S3
前頭葉機能の刺激法としての音楽療法
- 情動の調節と注意力へのアプローチ -
奥村由香
(中部脳リハビリテーション病院・中部療護センター)
交通事故などによる重症の脳外傷後遺症には、多くの場合、遷延する意識障害や重度の高次脳機能障害がみられます。特に前頭葉の損傷では、易怒性や暴力行為などの情動・行動障害の症状が併存することがあります。こうした症状によって、リハビリテーションの介入に難渋することは少なくありません。
音楽は快の情動への関与があることから、情動・行動障害へ介入する手段の1つとして期待されます。しかし、脱抑制が顕著で情動の変化が大きいと、楽しいはずの音楽が却って興奮を誘発してしまう場合もあります。そのため、音楽療法では、選曲や環境設定が重要です。そして、クライエントが環境から必要な情報を取り出し集中して活動を続けられるよう、情動調節と伴に、注意力にアプローチすることが必要となります。
本シンポジウムでは、リハビリテーションにおける感覚刺激法の一環として行っている当院の音楽療法において、こうした症状に対してどのように音楽を用いているか、具体的例をお示ししたいと思います。また、音楽が注意力に与える影響について、当院で行った機能的近赤外分光法(functional Near infrared spectroscopy : fNIRS)を用いた研究についても紹介し、音楽療法の実践について論議を深めていきたいと思います。